2024/04/17 15:19
こんにちは。Jwatchman髙橋です。
突然ですがこの時計、何か違和感を感じませんでしょうか?
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そう、文字盤が経年変化・・・ではなく改造されています。
このような改造を時計業界では、「リダン」と呼んでいます。
今回は、ヴィンテージの時計でよく取り上げられる不安要素「リダン」についてお話ししたいと思います。
そもそも「リダン」とは英語の”Redone”(=やり直す)を日本語化したものです。海外では”Refinish”(=再生)と呼ばれているため「リダン」は完全なる和製英語です。文字盤を塗り直して、元のデザインもしくは全く違うデザイン(本来存在しない仕様)にすることを言います。
このような改造が施されるのには三つの理由があります。
一つには文字盤が経年変化 or 経年劣化したため。
紫外線や湿度によって、元々の文字盤が飴色や薄いグレー(フェード)に変わることがあります。
このような変化は「経年変化」と呼ばれ、ロレックスのトロピカル文字盤やスターダスト文字盤など、現代においては概ね好意的に捉えられています。ただ過去においては綺麗なものを好む人が多かったことや、状態によっては視認性に影響を与えることがあったため、いったん全ての塗装を剥離し、塗り直しを行っていました。
住宅の外壁塗り直しに近いのではないでしょうか?時計を「道具」として扱っていた時代には必要といえる措置です。
「経年劣化」も同じようにリダンが行われますが、これは「経年変化」とは理由が異なります。
「経年劣化」の場合、時計のケース内部に水が入り込む水没や水入りといった症状を併発していることが大半です。昔の塗料は水に弱いものが多くふやけたり、表面のクリア塗装が剥離することもありました。
そのため、経年劣化を理由に塗り直しされている場合は、内部の機械に問題がある可能性も高まります。
二つには「高く売れるから」。
一般的に黒い文字盤の時計は個体数が少なく相場が上昇傾向にあります。
高騰するものには多くの人が魅了されますが、そこに魅了されるのは趣味人だけではありません。悪い商売人も当然その波に同乗してきます。
結果として白い文字盤をリダンし、さもオリジナルかのように装う手法が流行していた時期がありました。
ブランド名はあまり出すべきではありませんが…ロレックスやチュードル、オメガ、IWC、セイコーの一部上級モデルについては特段の注意を要する必要があります。このような個体は当然のように流通しており、モノによっては非常によくできているものもあるので注意が必要です。実は店主も最近IWCの個体で引っかかりました(笑)
また黒文字盤だけではなく、Wネームと呼ばれる宝飾店モデルも注意が必要です。Turler(チューラー)やMeister(マイスター)、Tiffany(ティファニー)といった特定の宝飾店で販売した際に、メーカーが文字盤にスタンプを入れていたモデルがたまに存在します。ティファニーやカルティエのネームが下部に入っているモデルは大半がリダンや後乗せですので要注意です。
三つは遊びでマニアが改造した場合。
これは車やバイクを改造する感覚に近いかもしれません。
車趣味の世界ではエンジンを改造したり、車高を下げるような改造が定番です。
時計の世界でも似たようなことが行われており、例えば、機械の振動数(振り子の往復回数)を変更させたり、ケース部分を自作したり・・・。
このような改造の他、文字盤を自力で書き換えてしまう人が存在します。
実は最初に挙げたラドー・ゴールデンホースはそのような改造が施された個体です。
マニアが改造する場合、しっかりとした設備がないことが多く、仕上がりにムラが出ることが多いです。また、自分自身で使用することを想定しているため、版権物(出版社や作者が著作権を有しているもの)を使用している場合もあります。著作権法の範疇に当てはめれば、このような個体は売買することを避けた方が良いといえるでしょう。限りなくグレーに近い改造といえます。
以上三つのケースが大きく分けて存在します。店主は面白いリダンに関しては否定しませんし、それに何らかの(やむを得ない)事情が存在する場合は面白がって入手するほどです。実際、先に挙げたラドーも文字盤の芸術的な側面と、印字のクオリティの高さに魅了されて入手しました。
とはいえお客様に販売するとなると話は全くの別です。当店では特段の理由と相応のクオリティが伴わない限り、いたずらにリダンされた個体は一切扱いません。(リダンの場合は必ず明記いたします。)また文字盤だけでなく、部品の整合性についても研究を重ねており、日々その精度を向上させています。
今後とも真正文字盤とリダンの研究に努める所存です。
Jwatchman 髙橋